ムスリム旅行者向け食のおもてなし情報 から参照

イスラームという宗教

西暦610年、預言者ムハンマドが40歳の時にアッラー(神)から啓示を受けたことから始まりました。アッラーは唯一の絶対神とされています。

預言者ムハンマドは現サウジアラビアのメッカという街で生まれました。啓示を受けた後に、メッカから宣教が始まりました。イスラームは現サウジアラビアから世界中に広まり、現在では、世界中で16億人以上が信仰する宗教となっており、いくつかの宗派に分かれています。世界人口の約1/4がイスラーム教徒といわれており毎年イスラーム教徒の人口は増加していると言われています。

イスラームの教えは一切が神からもたらされたものであり、牧師やお坊さんという制度はありません。また、預言者ムハンマドにさえ神性を認めないのがイスラームの教えです。

イスラームにおける啓典

聖典クルアーン(コーラン)
預言者ムハンマドが神から受けた啓示をまとめたものです。教えの基本は全てクルアーンが根拠となっています。
イスラーム教徒は、一人ひとりがクルアーンを指針に、自分だけの責任で神と向き合う宗教です。

すべてのイスラーム教徒は啓典であるクルアーンを指針に、個々人の知識と信仰に照らして自分だけの責任と判断で行動する事が義務となります。
第2の啓典としてハディースも重要です。クルアーンに無いことは、預言者ムハンマドの言行(ハディース)を指針としております。
預言者ムハンマド亡き後、イスラーム法(シャリーア)の整備が進められました。

イスラーム法の法源

第1 クルアーン
第2 預言者ムハンマドの言行録(ハディース)
第3 合意(イジューマト):イスラーム共同体、イスラーム学者の合意した解釈
第4 類推(キヤース):未知の法判断を既に成立した類似の条文に基づく推論

イスラーム教徒

イスラーム教徒(ムスリム)

六信五行
イスラーム教徒の信仰と実践に関する基本規範

六信
1.神 2.天使 3.啓典 4.使徒 5.来世 6.定命

五行
1.信仰告白 2.礼拝 3.喜捨 4.断食 5.巡礼

ムスリムの食

ハラールとハラーム
ハラールとはゆるされたこと。ハラームとは禁止されたことをいいます。
食べ物に限らず、行動や言動等生活全てにおいてかかることです。

ムスリムが本来最も気にすべきハラームとは、不正に富を貪ることであり、食物規程などではないのです。
『イスラームにおける啓典』の項で述べるとおり、「食べて良いものか?食べてはいけないものか?」は個々の知識と信仰において個々が判断します。

イスラームにおいても食に関する世界的な統一基準はなく、また、決めつけになる様なものを作ることは禁止されています。そういうことに対して、他者が「指針」「基準」等を作ることはトラブルの原因になり得ます。個々の食品がハラールか否かは、適切な判断材料を伝えることで、ムスリム各人が自身の信仰に照らして判断することができます。

まとめ

一つではない、ムスリムの「ハラール」
ムスリムを迎え入れる事業者や生産者には、ハラールかどうかは表記せず、英語や多言語で原材料を記載し、肉を含む場合はその産地を明記することをお勧めします。原材料と原産地を表示することは、ムスリムのみならず、外国人観光客を広く受け入れることにも役立ちます。

「一つではない」と書いたとおり、すべてのイスラーム教徒は啓典であるクルアーンを指針に、個々人の知識と信仰に照らして自分だけの責任と判断で行動する事が義務であり、知識量や敬虔さ、居住国の状況や文化により選択しない場合もあります。

ムスリム旅行客をお迎えするうえで、最初にすべきことは「使用材料をお知らせすること」「選択はムスリムに任せること」です。今まで説明したことを理解したうえで、店などの特徴をそれぞれの事業者が経営方針によって付加していくことはイスラーム的にも問題はありません。

参照

クルアーン(食物に関する教え)

クルアーン第2章173節
かれがあなたがたに、(食べることを)禁じられるものは、死肉、血、豚肉、およびアッラー以外(の名)で供えられたものである。だが故意に違反せず、また法を越えず必要に迫られた場合は罪にはならない。アッラーは寛容にして慈悲深い方であられる。

【 説明 】
間違って豚肉を食べてしまったことや、必要に迫られて豚肉を食べることは罪では無いと言われています。

クルアーン第5章90節
あなたがた信仰する者よ、誠に酒と賭矢、偶像と占い矢は、忌み嫌われる悪魔の業である。これを避けなさい。恐らくあなたがたは成功するであろう。

【 説明 】
「飲酒は避けた方が良い」ということです。

クルアーン第5章5節
今日(清き)良いものがあなたがたに許される。啓典を授けられた民の食べ物は、あなたがたに合法であり、あなたがたの食べ物は、かれらにも合法である。...

【 説明 】
同じ啓典の民とは「ユダヤ教徒、キリスト教徒」のことです。『ファトワー』の項にも記載があります。

クルアーン第16章116節.117節
あなたがたの口をついて出る偽りで、「これは合法〔ハラール〕だ、またこれは禁忌〔ハラーム〕です。」と言ってはならない。それはアッラーに対し偽りを造る者である。アッラーに対し偽りを造る者は、決して栄えないであろう。(これらの者は)僅かな享楽だけで、かれらには痛ましい懲罰があろう。

【 説明 】
『ハラールとハラーム』で記載したとおり、他者がハラールとハラームを決めつけることは強い禁止事項と読み取れます。

イスラームという宗教

ハディース(食物に関する教え)

(ハーキムの真正ハディース)より
アッラーがその書の中で許された(ハラールとされた)ものこそがハラール、アッラーがその書の中で禁じられた(ハラームとされた)ものこそがハラームであり、言及されなかったものはお目こぼし(アーフィヤ)です。それゆえアッラーからのお目こぼしを戴きなさい。なぜならアッラーは何物もお忘れになることはないからです。それから(預言者ムハンマドは)「汝の主は忘却者ではあらせられない」(クルアーン・マルヤム章64節)の節を読み上げられました。

【 説明 】
イスラームの教えには、食に関する統一基準はないと言うことがわかります。

(テイルミズィーの真性ハディース)より
「酔うものは全てハラームである。1ファルク(16ポンド)飲んで酔うものは、掌一杯でも(異伝では口一杯haswah)でもハラームである」、

【 説明 】
酩酊しない程度であれば、良いと判断するムスリムもいます。

(アル=ブハーリーの真正ハディース)より
人々が預言者ムハンマドに「ある部族がアッラーの御名が唱えられたかどうか分からない肉を我々に持ってきました」と尋ねたのに対して預言者は「あなた方自身でアッラーの御名を唱えてそれを食べなさい」と答えられました。

【 説明 】
「アッラーの御名」とは「ビスミッラー」という短い言葉です。日本人にとっての「いただきます」にあたり、前述のハディースに則り、ムスリムが食事の前によく使う言葉です。意味するところは「不明なものが入っているかもしれない。その時は神様に任せます。」という気持ちがあるのです。

イスラームという宗教

その他(豚肉由来に関する情報)

マイノリティ・ムスリムのイスラーム法学 p205-6 (アル=カラダーウィー※著 「ムスリムマイノリティ法学」)

多くの人が誤解しているように、豚の骨や脂肪に由来する酵素の全てが禁じられていると確定しているわけではない。イスラーム法学者の多数の意見で認められている通り、不浄物は変質すればその規定も変わる。・・・犬や豚であれ動物が塩田で死んで、塩がそれを完全に浸食し、その「犬性」、「豚性」が無くなり、「塩性」だけが残った場合、その性質が変わり、名前も変わり、その結果その規定も変わるのである。なぜなら法規定はその原因の有無に相関するからである。それゆえ我々は何物であれ、その原料によって法判断をくださない。というのは、酒の原料は葡萄のようにシャリーア上許されたものであるが、それが酔わせる物に変質した時に、それが酒であると判断し、それを禁じ、またそれが酢に変れば、それを清浄であり許されている、と判断するからである。豚の骨かもしれないような動物の骨から採ったゼラチンのような豚に由来する多くのものは既に変質しており、別の表現をとるなら、科学的に変化しており、不浄とは見なされない。同志ムハンマド・アル=ハワーリ一博士のような専門家は、この物質は化学的に変質していることを確証しており、豚に由来する石鹸、歯磨き粉も既に「豚性」が消滅しており、同様なのである。

※ユースフ・アル=カラダーウィー
(1926年9月9日~)はエジプト出身のウラマー(イスラーム法学者)。国際ムスリムウラマー連盟(英語版)会長。イスラーム界では最も著名な法学者の一人であり、彼の出すファトワー(宗教令)はアラブ社会のみならず全世界のイスラーム教徒に対して絶大な影響力をもつ。現在カタール在住。

【 説明 】
これが絶対で強制されるものではありません。もちろん敬虔さ、居住国の状況や文化により豚由来品も避けるムスリムもいます。

イスラームという宗教

ファトワー(食物に関するもの)

ファトワーとは
ファトワーとは、一般信徒からの質問に対する有資格者による回答で、法学裁定、法判断をめぐる意見書、法学意見、法判断などといわれます。その内容は必ずしも法学に限定されることはなく、神学、道徳などの領域をも含みうるため、教義回答とも理解出来る。また、ファトワーは法的拘束力を持ちません。よって強制力を伴った問題解決の手段である判決とは違う性格を持ちます。イスラーム法の解釈・適用に当って新たに困難が生じた際、それについて法判断を述べる資格を認められた権威ある法学者を『ムフティー』(muftī)といい、文書で出されるその意見書を「ファトワー」(fatwā)という。」(アブドル=ワッハーブ・ハッラーフ著、中村廣治郎訳『イスラームの法 ―法源と理論』東京大学出版会、1984年、307頁)。

2005年6月第五回ヨーロッパ・ファトワー会議
コーラのようなアルコール含有0.5%以下の飲みものが合法であるとのファトワー。
この比率(0.5%)なら、飲み物であれ、食べ物であれ、たとえ含有されていても影響はなく監視にはならず、「たくさん飲めば酔うものは少しでもハラーム」とのアブー・ダーウードとテイルミズィーが、ジャービルから、イブン・マージャがアブドッラー・ブン・アムルから伝える預言者の真正なハディースの意味するところから、合法とみなされる。

【 説明 】
このファトワーから、「酔わないものはハラールである」という意見ととるムスリムもいます。

オサイミーン師※のファトワー
アッラーのお言葉に『かれ(アッラー)こそは、この地上にあるもの全てをあなたたちのために創られた御方』 (雌牛章29節)とあるとおり、そもそも全ての食べ物、飲み物、着る物の本質は、それがハラームであるとの根拠が確立しない限り、ハラールである。
この飲み物はハラームだ、この食べ物はハラームだ、この服はハラームだ、と言う者がいたら、「根拠を示せ」と尋ねよ。根拠が示されたら、その根拠が示すところにより行動すべきである。根拠が示されないなら、彼の言葉は拒否される。なぜなら、アッラーは、『かれ(アッラー)こそは、この地上にあるものすべてをあなたたちのために創られた御方』と述べており、アッラーが創った地上にある全てのものは我々のためのものなのであり、「すべて」という語が包括性を強調している。また、『お前たちに禁じられたものはお前たちに明示された』(家畜章119節)とあるとおり、禁じられたものは必然的にその禁止が詳細に知られたものでなければならず、そうでないものはハラームではないのである。

※ムハンマド・イブン・アル=オサイミーン
1925-2001 サウジアラビアの宗教学者 スンニ派 ハンバリー法学。20世紀後半の最も顕著なイスラ-ム学者の一人。

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